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高森明勅
2023.8.18 09:00皇統問題

男系男子限定の理由は「どうでもよい」「説明が出来ない」?

皇室において、とっくの昔に側室制度が無くなり、
一夫一婦制に移ったにも拘らず、皇位継承資格だけは
何故か明治以来の「男系男子」に限定し続けるという、
明らかに“ミスマッチ”なルール。

それにいまだに執着する人らがいる。
そもそも、どうして男系男子に限定しなければならないのか。
この最も初歩的な問いかけに対する答えが、どんどん“痩せ細って”、
今や無回答のまま思考停止に陥ってしまった。

最初の回答は、明治の皇室典範の制定に際して井上毅(こわし)が
提出した「謹具意見」(明治19年)に示されていた。
そこに掲げられた主な理由は、以下の通り。

過去の女性天皇は“中継ぎ”に過ぎず(→現代の歴史学では否定)、
「男尊女卑」の観念が社会的に根強い中で女性天皇が婚姻されると、
配偶者の男性が君主より上位と見られかねないこと
(→堂々と男尊女卑を理由に挙げていた)、
古代シナに由来する男系血統の標識である「姓」を前提とする限り、
女性天皇が例えば“源”姓の男性と婚姻するとそのお子様は
“源”姓と見なされること(→既に「姓」の制度は廃止。
ちなみに源姓の男性であれば血統的には「男系の男子」
なのだが、既に皇籍から離れて年月を経ているので、
名分上「皇統」とは見なされなかった)、
側室制度の手当てがあれば男系限定でも無理はないこと
(→これが切り札!)等。

次は、現在の皇室典範の制定に当たって法制局(内閣法制局の前身)
が用意した「皇室典範案に関する想定問答」(昭和21年)。

こちらはシンプルに、(男系主義に基づく「姓」“的な”観念によれば)
女性天皇が皇族以外の男性と婚姻された場合、そのお子様は配偶者の
家系のお子様と見られかねない為、とした。

明治時代に井上が掲げた理由は既に“時代遅れ”になっており、
そのまま踏襲できなかった。
なので、昭和20年代でも説得力を持ちそうな論点に絞っている。

「姓」の制度が明治4年に廃止された後も、
明治典範制定の当時には社会意識としてまだ残存していた。
だが昭和典範制定時には、その意識が更に希薄化しており、
さすがに「姓」という語自体はもう使われていない。

しかし一方、漠然とした観念としてはなお一定の規制力を
保っていたことから、それが唯一の理由とされた。
しかし勿論、現在ではもはやそれも理由にすることはできない。
そこで、理由の“引き算”が進んでしまい、遂にこんな発言が
飛び出すようになった。

「(それが伝統だから)そもそも理由などどうでもよい」
(竹田恒泰氏『伝統と革新』創刊号)と。

先頃、開催された「世界に咲き誇れ日本 安倍晋三元総理の志を継承する集い」
(7月8日)でも、安倍氏のスピーチライターだった谷口智彦氏が
以下のように述べられたという(『祖國と青年』令和5年8月号)。

「天皇がなぜ男系でなくてはならないか。
それは近代以来のモダンな政治の言葉では、どだい説明が出来ないものです。
続いてきたという重い事実。そこに根拠があり、有無を言わさぬものがある」

同氏は、過去の男系継承が“側室の支え”によって
「続いてきたという“重い”事実」を知らない。
更に井上や法制局がそれぞれ、男系限定の理由を「モダンな政治の言葉」
で“説明”しようと、懸命に努力した事実すら、知らないだろう。

そうした基礎知識もなく、「有無を言わさぬ」などと虚勢を張って、
肝心な理由説明から一目散に逃げ出した。情けない。
しかし、安倍氏のスピーチライターによる安倍氏追悼集会での
スピーチだから、恐らくこれが男系限定論の現在の最高レベルだろう。

以前、こんな出来事があったのを思い出す。

神社関係者の集まりで男系論者が
「なぜ女性天皇を認めてはいけないのか」というテーマで、
高尚そうな講演をされた。
その後、質疑応答の時間に「先生、でもどうして女性天皇を
認めてはいけないのですか?」という質問が出される。
すると、講演者は回答に窮して立ち往生され、会場がざわついたという。
愉快な逸話だ。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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